大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和56年(ネ)278号 判決

控訴人

福山通運株式会社

右代表者

渋谷昇

右訴訟代理人

河合伸一

仲田哲

被控訴人

右代表者法務大臣

坂田道太

右指定代理人

泉本喬

外四名

被控訴人

四国通信建設株式会社

右代表者

越智伊平

右同

越智進

右訴訟代理人

藤山薫

被控訴人

日本電信電話会社

右代表者総裁

真藤恒

右訴訟代理人

河本重弘

右指定代理人

永吉孝男

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

(控訴人)

一  原判決を取り消す。

二  本件を高松地方裁判所に差し戻す。

(被控訴人ら)

主文と同旨

第二 主張及び証拠〈省略〉

理由

一控訴人の本訴請求の要旨は、本件事故により死亡した訴外板嶋勤の相続人である訴外板嶋勝子らから、車両の保有者である控訴人及び控訴人の従業員で同車両を運転していた訴外佐藤に対し、損害賠償請求訴訟(以下「別訴」という。)が提起されたので、別訴の結果により控訴人が訴外勝子らに損害賠償金を支払つたときは、被控訴人らに対し各自右支払金とその遅延損害金を求償するというものであり、その求償の理由として、本件事故の責任は、専ら被控訴人らにあり、予備的に控訴人と共同して被控訴人らにもあることを主張するものである。

そして、別訴が原審に係属し未確定であることは、弁論の全趣旨により明らかである。そうすると、控訴人の本訴請求は、勝子らに対する損害賠償金の支払を条件として求償金の請求をする将来の給付の訴えであるというべきである。

二ところで、将来の給付の訴えは、民事訴訟法第二二六条がこれを認めているところであるが、それには、第一に現在においてその請求の基礎の関係が存在し、かつ明確であること、第二にあらかじめそれを請求する必要性があることが要件とされている。

そこで、本件訴えが右の要件を具備するかどうかについて検討する。

1  控訴人は、主位的に本件事故につき責任を負わないことを前提に、被控訴人らが本件事故の全責任を負うべきことを理由に求償請求をしているが、控訴人が本件事故につき責任を負わないのであれば、別訴において控訴人が損害賠償を命ぜられるはずがなく、求償権の発生する余地はないから、この主張は理由がない。

2  控訴人は、予備的に、対外的に控訴人に本件事故について損害賠償をすべき義務があるとしても、被控訴人らは共同不法行為者であり、本件事故の態様等からいつて、控訴人と被控訴人らとの間においては本件事故発生の責任はすべて被控訴人らが負うべきものと主張する。

控訴人主張の本件事故の態様のみをみ訴外勤の過失を除外して考えると、本件事故発生の責任は被控訴人らに帰属するものと考える余地はあるかも知れないが、〈証拠〉によると、訴外勝子らは、別訴において控訴人とその従業員訴外佐藤一敏を共同被告としておること、訴外佐藤は本件事故が同人の業務上過失に基づくものとして懲役一年二月、五年間執行猶予、保護観察付の判決を受けていることが認められるので、本件事故の発生については、訴外佐藤に不法行為者としての責任があり、したがつて、その使用者である控訴人にも責任が肯定されることが十分考えられるので、本件事故発生の責任を専ら被控訴人らに帰するものと断定するのは理由がない。

3  本訴請求は、控訴人が別訴で敗訴し訴外勝子らに損害賠償金を支払うことを条件に被控訴人らを共同不法行為者とみて予めその求償をするものである。

しかし、〈証拠〉によると、別訴は訴外勝子らが、控訴人及び訴外佐藤に対し、損害賠償金総額五二二四万一六三七円及び内金四七四九万二三九五円に対する昭和五五年六月一二日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めているものでその損害賠償の内容は、訴外勤の逸失利益、慰謝料の各相続分、訴外勝子ら固有の慰謝料、訴外勤の葬儀費用、弁護士費用であることが認められるが、その別訴は原審に係属中であつて未だ控訴人の損害賠償義務の有無もその賠償額も確定していないし、〈証拠〉を総合すると、本件交通事故において訴外勤は即死し、訴外佐藤にはひき逃げの疑いもあるので、その基礎となる事実関係は必ずしも明確でなく、更に、過失相殺の有無、割合、慰謝料額の認定等多くの問題点を含み別訴の判決が確定するまではその結論を明確にすることはできないから、この段階で控訴人の被控訴人らに対する求償金額を確定することは到底できないところといわねばならない。

控訴人は、本件事故につき被害者から別訴を提起され、事故自体も特定し、その賠償請求の内容も特定していて、本件求償金請求の基礎たる関係は明確に成立しているというが、事故自体と訴外勝子らからの賠償請求は特定しているとはいえ賠償金額したがつて求償金額が確定していないのであるから請求の基礎関係が明確であるとはいえない。

4  また、控訴人は、別訴において判決を受ける危険にさらされていること、負担部分の確定は事実の確定にすぎず確認訴訟の対象とし得ないこと、紛争解決の一回性の見地を根拠として本件訴えは将来給付の訴えの要件に欠けるところはない旨主張するが、訴訟の当事者となつた以上将来判決の言渡があるのは当然のことで、判決が確定し求償金額が明確になることは必要なことであるからこれをもつて危険ということはできないし、紛争解決の一回性とは本来同一当事者間の同一事件は既判力ないしこれに類似の効力により再度の訴訟を許さぬということであり、一個の紛争につき関係者と考えられるすべてを当事者にして解決することまでを要請するものと解することは広きに失し、本件の場合必ずしもこれに当たらない。また、負担部分の確定は寄与割合を確定しなければ判断できないが、それらの判定には被害者の過失も判定せねばならず、もととなる損害賠償額が確定していなければ寄与割合とか負担部分を判定する必要はないといわねばならない。

控訴人の防禦は被控訴人らに訴訟告知をして参加的効力を及ぼす余地を残しておけば足るというべきである。

三以上のとおり、本件訴えは、将来の給付の訴えとして、現在その基礎の関係が存在し明確であるとの要件に欠けるし、その必要性もなく不適法であり却下を免れないものであり、原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(菊地博 滝口功 川波利明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例